back numberの「幸せ」が切なすぎてやばい…絶対に聴くべき恋愛ソングに迫る!
10代20代の女性から絶大な支持を得ている人気バンドback number。その人気の秘密は超リアルな歌詞の世界観にあります。今回はその中でも初期の作品「幸せ」をご紹介。back numberにしか書けない女声目線の失恋ソング「幸せ」の歌詞を読み解きます。
back numberの曲は恋愛をテーマとする曲が多い
今年3月に、3年ぶり6枚目のアルバム『MASIC』をリリースしたback number。
このアルバムを携えてのライブツアー「NO MAGIC TOUR 2019」も4月から全36公演の日程で開催中です。
10代20代が選ぶ好きなバンド・ランキングでも、常に上位に位置していることでも有名な3人組ロックバンド。
恋愛の光と影を巧みに描くback numberの楽曲は、ドラマの主題歌やCMに起用されることも多く、シングル「僕の名を」は、10代向けの映画『オオカミ少女と黒王子』(2016年公開)の主題歌にもなりました。
2011年のメジャーデビュー以来、地道なライブ活動によりリスナーの幅を広げ、バンド人気が低迷している中でも着実に知名度を上げてきたback number。
デビュー前はワゴン車で寝泊まりしながらライブハウスを回っていた彼らですが、2013年に初の日本武道館での単独ライブ、2018年には3大ドームツアーを見事に成功させました。
そんなback numberの魅力と言えば、独創的な歌詞と感傷的なボーカルが特徴の恋愛ソング!。
具体性の高い情景描写は生々しいほどリアルで、聴く者をその物語へと引き込んでいきます。
「生々しくないと嫌なんですよね。“恋の最中”って何を見てもキラキラしてるから、情景描写で十分心の話ができちゃうんです」と、ボーカルで作詞曲を担当する清水依与吏(しみずいより)本人もインタビューの中で語っています。
数ある恋愛ソングの中でもとくに人気なのが、過去の恋愛を引きずった失恋ソングです。
傷ついた胸の内を吐露する女々しい歌詞も、等身大の飾らない言葉とボーカル清水のエモーショナルな歌声によって、男女双方から共感を得ています。
筆者が個人的におすすめする失恋ソングは、2011年にリリースされた3rdシングル「思い出せなくなるその日まで」です。
恋人と別れた後の虚しさが際立った歌詞で、失ってから気付くものの大きさを思い知らされる、そんな切ない一曲です。
~主な人気失恋ソング~
- あとのうた /2010年リリース、アルバム『あとのまつり』に収録
- 高嶺の花子さん /2013年リリース、8枚目シングル
- fish /2014年リリース9枚目シングル
- クリスマスソング/2015年リリース、フジテレビ系ドラマ『5→9〜私に恋したお坊さん〜』主題歌
- ハッピーエンド /2016年リリース、映画『ぼくは明日、昨日のきみとデートする』主題歌
back number「幸せ」はどういうストーリー性を持つのか
「幸せ」は、メジャーデビュー後の1枚目(通算2枚目)のアルバム『スーパースター』に収録されている一曲です。こちらも、back numberの失恋ソングとしてとても人気の高い曲です。
一見タイトルから、“恋愛中の幸せな気持ち”や“ハッピーエンド”の曲を期待してしまいます。
ですが、この曲の一人称である“私”の感情は、「幸せ」とはまさに対極。痛みそのものです。
では、この曲に込められた“しあわせ”とは何を意味するのでしょうか。
後程歌詞をじっくり考察してみたいと思います。
シングルの「はなびら」のカップリングとして収録されている
「幸せ」は、2011年のデビューシングル「はなびら」のカップリング曲でもあります。
カップリング曲を、一昔前のB面(レコード)だと未だに思っている人がいます。
ですが、売り手側の意図はともかく、アーティスト本人からすれば、どちらがメインということはありません。
とあるインタビューでも、
“シングル曲・カップリング曲と分けることは、曲に優劣をつけるようで嫌だ”
と、清水本人が話しています。
そんなの当たり前ですよね。
どの曲も、唯一無二の作品として全力で作ったに違いありません。
どちらの曲も、back numberにとっては優劣つけ難い作品であり、それはファンにとっても同じです。
ただ「はなびら」と「幸せ」は、どちらも失恋ソングであるという共通点があります。
「はなびら」は、桜舞い散る春空の下で、別れた恋人のことを想っている曲です。
抱きしめても
春ははなびらのように
僕の腕をすり抜けて
それでも忘れたくなくて
何度も何度も
巻き戻して
君ともう一回出会って
もう一回恋したいんだって
今度はもう離さないよ
離さない
君を離さない
穏やかで温かい春の日差しは、二人が幸せだった日々と大好きな彼女そのものなのでしょう。
散ってしまった花弁が二度とは戻らないように、彼女も戻ってはこない。
それを知りながら、まだ彼女を忘れることができないでいる男性の未練。
そんな女々しさも、彼らのリアルでストレートな言葉によって、見事ラブソングへと昇華されています。
歌詞からも分かるように、この曲は男性目線で描かれた曲です。
男性の方が、過去の恋愛を引きずるようですし、共感する男性は多いのでしょうね。
女性目線での恋心を描いている?
男性目線での失恋を歌った「はなびら」。片や女性目線で描かれた「幸せ」。
どちらも失恋ソングという共通点はありますが、少し趣が違います。
“はなびら”という言葉からは、移り行く儚さを感じます。
なんとなくですが、失恋を連想させるキーワードの一つとして違和感はありません。
ですが、“幸せ”という言葉は、それとは対極にあるように感じます。
そもそも“幸せ”とは、物質的なものではなく概念です。
人間がそうありたいと願う普遍的真理です。
言葉だけ比べると、随分スケールが違いますね。
失恋での傷心に、それほど男女の差はないはずなのに、何がそんなに違うのでしょう?
ただ人称を“僕と君”から“私とあなた”に変えただけではなさそうです。
back numberの曲が若い女性に支持されている理由が、この“女性目線”の歌詞にありそうです。
back number「幸せ」の歌詞を読み解く
ここからは筆者の独自解釈となりますが、「幸せ」の歌詞を読み解いてみたいと思います。
曲中に描かれたストーリーと主人公にとっての“幸せ”とは何かを紐解きます。
4行のプロローグ
冒頭のAメロの中に、この曲の登場人物が示されています。
●主人公の“私”
●主人公が片思いをしている“あなた”
●“あなた”が思いを寄せる“その人”。
本当はもう分かってたの
あなたがどんなにその人が好きなのかも
となりにいる私じゃ勝ち目が無いって事も
本当はもう知ってたの
これから始まる物語のプロローグとなっている、この僅か4行の歌詞。
この歌詞が秀逸なのは、3人の相関性だけでなく、“私”の人物像や互いにとってどんな存在であるのかまでが映し出されていることです。
“本当はもう分かってたの”
一番最初にこの一言を持ってくることで、主人公である“私”は、もう随分前から“あなた”を見つめ続けていたこと。そして、痛みを抱え続けていたことが分かります。
“となりにいる私じゃ勝ち目が無いって事も”
この一行では、“私”と“あなた”は以前から親しい友人関係(幼馴染み)にあること。
そんな彼女から見ても、“その人”は素敵な女性であることが窺い知れます。
“本当はもう知っていたの”
折り合いをつけたいのにつけきれない“私”が、自分自身に言い聞かせているダメ押しのような一言です。
もう答えは出ているのに、それでも動けないでいる彼女の心の葛藤が伝わってきます。
すれ違う視線
このBメロにあたる歌詞では、“私”と“あなた”それぞれの視線が交じり合わない様子が見て取れます。
あなたが恋に落ちてゆく
その横で私は
そっとあなたに恋をしていたの
何にも気付かないで笑うあなたの
横顔をずっと見ていました
“あなたが恋に落ちてゆく その横で私は”
彼が見つめるのは、“私”が勝ち目が無いと思う“その人”。
“私”の視線になんて気付くこともない、そんな“あなた”を見つめる主人公。
彼が恋に落ちてゆくのを知りながら、何もできずにいた“私”の悶々とした気持ち…。
片思いの経験がある人なら痛いほど分かるのでは?
“何にも気付かないで笑うあなた”
屈託なく笑う彼のことを、時に恨めしくも思ったことでしょうね。
届かぬ想い、それを伝える勇気もない“私”には、ただ横で“あなた”を見つめることしかできないのですから。自分にも腹が立ちそうです。
主人公の立ち位置は、あくまでも“横”であって、彼の視線の先ではない。
“あなた”が振り向いてくれない限り、“私”はずっと見ていることしかできないのです。
何とも歯がゆいですね。
本当の願い
いよいよ主題であるサビに入ります。
ここで初めて、“幸せ”という言葉が歌詞に登場するので注目しましょう。
最初から
あなたの幸せしか願っていないから
それがたとえ私じゃないとしても
ちゃんと最後は
隠した想いが見つからないように
横から背中押すから
誰よりも幸せにしてあげて
“あなたの幸せしか願っていないから”
ここで語られている幸せは、自分を除いた“二人の幸せ”です。
自分の幸せより相手の幸せを願うとは、なんと健気なのでしょう。
“それがたとえ私じゃないとしても”
心の整理がついた上で、“あなたの幸せ”を願っているのなら、とくに健気でもなんでもありません。
彼女が痛々しいほど健気に思えるのは、僅かばかりの可能性を捨て切れていないから。
その希望こそが、彼女をギリギリのところで支えていることも切ないです。
彼の幸せを願う気持ちに嘘はないのでしょう。
でもどこかで、“私に気づいて““私じゃだめ?”とシグナルを送っている主人公が見え隠れしています。
“隠した想いが見つからないように 横から背中押すから”
本当なら“私の想い”に気づいて欲しいはずです。それが女心というものです。
でも、それを望まないのは、ただの友人としてでも彼の傍にいたいから。
せめて“あなたの横”だけは、誰にも譲れない、奪われたくないと思っているからでしょう。
それでも、“見つからないように”という言葉の裏側には、“見つけてほしい”という思いが隠されているように感じます。
込み上げる感情
これまで終始健気だった主人公ですが、2番に入ると少しネガティブな感情や本音が現れ出します。それでは物語の続きを見てみましょう。
あなたが今しているのは
私が一番聞きたくない話なのに
それでも聞き続けるのは
あなたに会えなくなるよりは
まだ少しだけましだから
“私が一番聞きたくない話”
誰だって、好きな人がする“恋ばな”なんて聞きたくありませんよね。。
主人公の想いを知っている友人A子の立場なら、さぞかし彼にイラついたことでしょう。
やっぱり少し無理をしていたのでしょうか。
1番の最後では、“誰よりも幸せにしてあげて”なんて背伸びをしてみたものの、ここにきてポロっと本音が出てきました。
何とか自分に言い聞かせてはいますが、少しくらいは“私”の痛みにも気付いてほしいという本心が伝わってきます。
ひとり空回り
私が聞きたかったのは
終電の時間でも好きな人の悪口でもなくて
せめて今日のために切った髪に気付いて
似合ってるよって言ってほしかった
“せめて今日のために切った髪に気付いて”
女の子が髪を切るのには意味がある。
たとえ意味がなくても、好きな人には気付いてほしい。
友人A子ならアシストしてあげたいところですが(笑)。
“今日のために切った”というなら、今日は久しぶりに二人きりになれた日だったのか。それとも、彼女自身の決意の表れだったのか。
どちらにしても、“あなた”に対して、主人公は一方的に苛立っている様子が垣間見られます。
ここにいて
最初から
あなたの幸せしか願っていないから
それがたとえ私じゃないとしても
ちゃんと最後は
隠した想いが見つからないように
横から背中押すから
もう少しここにいて
“もう少しここにいて”
この部分の歌詞は、一番では“誰よりも幸せにしてあげて”でした。
一歩退いたはずが、やはりまだ想いは断ち切れない様子です。
“ここ”は、“私の横”というだけでなく、心の距離のことも指しているのだと思います。
このやるせない感情を、いったいどこにぶつけたらいいものか。
あなたの幸せと私の幸せ
後半の歌詞を一気に見ていきましょう。
揺れ動く“私”の感情。自問自答の末に行きついた“幸せ”とは?
こんなに好きになる前に
どこかで手は打てなかったのかな
私が選んで望んで恋したんだから
叶わなくても気持ちが伝えられなくても
こんな気持ちになれた事を大切にしたい
本当だよ
会いたくて でもほら横にいても
また辛くなってる
その人より私の方が先に
好きになったのになぁ
でも私があなたを好きなくらい
あなたも想っているなら
私じゃやっぱりダメだね
最初から
あなたの幸せしか願っていないから
それがたとえ私じゃないとしても
ちゃんと最後は
隠した想いが見つからないように
横から背中押すから
誰よりも幸せにしてあげて
“どこかで手は打てなかったのかな”
“その人より私の方が先に好きになったのになぁ”
今さらどうすることもできないことは分かっているのに、“たられば”を考えてしまいます。
“先に告白しておけば”とか“別の人を好きになっていたら”とか、あれこれ想いを巡らせてはみても、結局同じ場所に帰ってきてしまう。
自分自身との折り合いをどうつければいいのか、苦しい胸の内が吐露されています。
“こんな気持ちになれた事を大切にしたい”
最初から叶わぬ恋だと分かっていても、“あなた”を好きになったことだけは後悔しない。そんな主人公の決意とも取れます。
きっと彼女は、これまでさまざな感情に振り回されてきたと思います。
それでも、一番純粋で尊いこの気持ちだけは、自分自身でも肯定したかったのでしょう。
“私じゃやっぱりダメだね”
大好きな“あなた”だからこそ、“私”には分かってしまう。
傷つきながら、なおも相手を慮れるのは、本当に“あなたの幸せ“を願っているから。
“最初からあなたの幸せしか願っていないから”
多少の見栄や意地が含まれていたとしても、やはりこの気持ちは真実なのだと思います。
抑えきれない気持ちが次々と溢れてきても、“私”が“あなた”の傍にいられたのは、この想いがあったからこそです。
“ちゃんと最後には”
誰が知るわけでもない、自分との約束。
“あなた”を幸せにできるのが“私”じゃないなら…
その時一番に望むのは、“あなたの幸せ”。
だから、その最後の一瞬までは、“あなたの横”にいさせてほしい。
そんな切なる願いが込められているようにも感じます。
彼女にとっての幸せとは、“あなた”と出会い、“あなた”に恋をしたこと。
もしかしたら、それ以上でも、それ以下でもないのかもしれません。
本当の幸せとは
普段私たちが幸せという言葉を使う時はどんな時でしょう。
- 美味しいものをお腹いっぱい食べられて幸せ
- ずっと憧れていた人に出会えて幸せ
- 大好きな人たちに囲まれて幸せ
- これまでの努力が報われて幸せ など
このように、大抵の場合は心身が満たされた状態を指していると思います。
ですが、本来“しあわせ”とは、“仕合わせる”がもととなり、“めぐり合わせ”を意味します。
予期せずに起きた事態(出来事)を指しているだけで、必ずしも幸福な状況や心境を示してはいません。
そのため、古くは“しあわせが良い、悪い”という使われ方をしていました。
本来の意味からすれば、幸せ=幸福なのではなく、自分の意思だけでは何ともし難い“縁(えにし)”を指しているのでないかと考えます。
そんな運命的な出会いがもたらすものの中には、当然良い事ばかりではなく、辛い事も悲しい事も含まれています。
昔の言い方をすれば、しあわせが良い時もあれば、悪い時もあるということです。
幸せの定義も価値観も人それぞれではありますが、
人と人とのめぐり合わせにより生じたあらゆる事が、“幸せ”そのものなのかもしれません。
back numberkの「幸せ」は、とても切ない失恋ソングです。
でも、たった一人の人と出会い、その人によって多くの感情が引き出され、自分が知らない自分にも出会えました。
“あなた”に出会って知ったのは、痛みだけでなく、温かさや愛おしさでもありました。
この曲で描かれているのは、悲恋なのではなく、一つの縁の物語なのだと思います。
まとめ
今回は、「幸せ」の歌詞の意味を考察し、なぜ多くの人がback numberの曲に引き込まれるのかを探ってみました。
back numberの楽曲で一際目を引くのは、やはり歌詞です。
ですが、決して文学的というわけではありません。
分かりすい言葉、理解しやすいストーリー。
ややもすれば稚拙な文(歌詞)に思えるくらいです。
ですが、それこそが特筆すべきback numberの表現手法です。
歌詞は小説などと違い、文字数に制限があります。そのため、無駄な言葉を可能な限り削ぎ落とさねばなりません。
しかし、それはストーリーを抽象的にしてしまうことにもつながります。
では「幸せ」の歌詞はどうだったでしょうか。
登場人物、その関係性とそれぞれの人物像、物理的時間と心的時間の変化(流れ)など、限られた枠組みの中にしっかりと描かれていました。
back numberが切り取った世界は、誰もが知る日常であり、自分の経験や感情と重なる“私の世界”の一部です。
誰にでも分かる歌詞(言葉)というのは、誰の心にも寄り添えるということなのだと思います。
back numberの楽曲には、ロックバンドらしい骨太なサウンドの曲もあれば、ストリングスやピアノがメインの曲もあります。
泣きたい時、励まされたい時、頑張りたい時。
そんなあなたに寄り添ってくれる一曲が見つかるはずです。