【はっぴいえんど】『風をあつめて』から漂う空気感が病みつきに。一体どんな曲なのか?
1970年、日本の音楽シーンに沢山の遺産を残したバンド『はっぴいえんど』“風をあつめて”などの名曲は時を経て今も高い評価を受け、後進に影響を与え続けています。今回は”風をあつめて“にスポットライトをあて、バンド『はっぴいえんど』を考察していきます。
名曲『風をあつめて』を残した日本の名フォークロックバンド「はっぴいえんど」
『はっぴいえんど』は1970年代の初頭、日本語のフォークロックの創成期に活躍したバンドです。
メンバーはベースやギター、キーボードなど多彩な楽器とボーカルを担当する細野晴臣。ギターとリードボーカルを担当する大瀧詠一。リードギターを担当する鈴木茂。そしてドラムの松本隆による4人組です。
細野が大学在学中に結成したバンド『エイプリル・フール』がメンバーチェンジを行い『ヴァレンタイン・ブルー』となった後、『はっぴいえんど』と改名し、デビューを果たしました。
バンドのサウンドはバッファロー・スプリングフィールドやグレイトフル・デッドの様なアメリカのウエスト・コーストの音楽に影響を強くうけています。
メンバー各々の演奏能力も高く、鈴木茂は解散後にはギタリストとして非常に大くのアーティストのレコーディングに参加する事になります。
大瀧はソロアーティストとして活躍、細野は鈴木と共にティン・パン・アレイで活躍後、YMOで大成功。そして松本隆は作詞家として一世を風靡します。
メンバーの大瀧詠一をして『はっぴいえんどは松本隆の詩がすべてだった』と言わしめる程、このバンドにとって最も特徴的なのは松本隆による叙情的で文学性の高いその歌詞にあります。
同時代やその周辺の他のフォークロックバンドと大きな違いを作っているのは、その洗練された楽曲や優れた演奏はもちろんですが、松本によるインテリジェンス溢れる歌詞の世界ではないでしょうか。
『はっぴいえんど』の『風をあつめて』とは一体どんな曲?
『風をあつめて』はおそらく『はっぴいえんど』の最も知られている曲ではないでしょうか。
この曲は作詞の松本隆がドラムを叩いている他は、作曲の細野晴臣がアコースティックギターやベース、オルガンそしてボーカルと一人何役もこなしています。
アコースティックギターのスリーフィンガーの演奏は細野が1番上手かったと、後に鈴木茂は振り返っています。イントロの印象的なフレーズが繰り返されている手法は後のヒップホップ的なアプローチの先駆けとも言えます。実際『かせきさいだあ』の楽曲『苦悩の人』では『風をあつめて』のイントロがサンプリングされて使用されています。
苦悩の人/かせきさいだあ
この楽曲はカバーもたくさんされていて、そちらから知る人も多いくらいです。矢野顕子や、太田裕美、My Little Loverやサカナクションの山口一郎など様々なミュージシャンがレコーディングをしています。
また、くるりの楽曲『春風』などは明らかに『風をあつめて』を意識している様で、先達に対するくるりなりのリスペクトを感じます。
風を“あつめる“という表現は非常にユニークです。私などは“空気の缶詰め"を連想してしまいます。ボブ・ディランは『風に吹かれて』と黄昏れ、金延幸子は『春一番の風は激しく』吹いていると歌い、矢口真里は『風をさがして』と言いました。吉田拓郎は『風になりたい』とうそぶきますが、欅坂は『風に吹かれても』と大人を惑わせます。
しかしながら松本隆は『風をあつめて』と剣よりも強いペンで力を込めました。そしてその時確かに世界中の風という風が集まっていたのです。
風をあつめて/はっぴいえんど
『風をあつめて』は1971年にリリースされた、はっぴいえんどのセカンドアルバム『風街ろまん』に収録されています。
実に半世紀も前の歌と考えると、この古臭くならなさはちょっと異常と言っても良いのではないでしょうか。その理由は一体どこにあるのでしょうか?
まず、アコースティックギターを柱としたサウンド全体が、洗練されていてシンプルである事が挙げられます。アコースティックギターの音と言うのは、昔の録音であっても何故か古臭く感じないのです。例えば、こんな曲があります。
春一番の風は激しく/金延幸子
1970年代に活躍した、女性シンガーソングライターの草分け的存在、金延幸子の名盤『み空』に収録されている『春一番の風は激しく』です。イントロからして少し『風をあつめて』を思わせます。と思ったら、プロデュースは細野晴臣なんですね。オマージュでしょうか。
BOTH SIDES NOW/ジョニ・ミッチェル
こちらは若き日のジョニ・ミッチェルが歌う名曲『BOTH SIDES NOW』です。とってもキュートで可愛いジョニです。これははっぴいえんどよりもさらに前の60年代と思われますが、今の曲と言っても通用しそうなアコースティックギターと歌です。古臭さを感じないのは、この曲も『風をあつめて』も心の琴線に触れる普遍的な何かがあるのだと思います。
次に歌詞に注目して『風をあつめて』の魅力を考えていきましょう。