【千と千尋の神隠し】ジブリ名作の主題歌を歌い上げる木村弓!「いつも何度でも」について徹底考察
宮崎駿監督、ジブリアニメの中でも超ヒット作品である「千と千尋の神隠し」。その主題歌は木村弓が歌う「いつも何度でも」です。
多くの人の心に残る名曲であり、老若男女問わず歌われる名曲です。この曲が作られた経緯やヒットの秘密を探ります。
主題歌『いつも何度でも』は誰もが心地よく忘れられない名曲
「千と千尋の神隠し」の主題歌『いつも何度でも』は、歌手であり、作曲家である木村弓さんの楽曲です。
2001年7月18日にシングルとしてリリースされ、第43回日本レコード大賞金賞、第25回日本アカデミー賞主題歌賞を受賞しました。
ライアーと呼ばれる竪琴を伴奏に、弾き語りで歌われるこの曲は、学校や保育園などでも歌われ、多くの人に親しまれています。
では「いつも何度でも」はどのように生まれたのでしょうか。
また、多くの人の心に残るのはなぜでしょうか。
作曲の経緯
『いつも何度でも』は、元々、公開までに至らなかった宮崎駿監督のアニメ「煙突描きのリン」という映画のために作られた曲でした。
しかし、初めから木村弓さんに作成依頼があったわけではありませんした。
きっかけは、ジブリアニメの世界観に感銘を受けた木村弓が自身の曲を宮崎駿監督に送ったことに始まります。
映画「もののけ姫」を観た木村弓さんは、宮崎駿監督の作品の曲を作りたいと考えたそうです。
そこで、自分の作品を宮崎駿監督に送りました。
すると、宮崎駿監督から手紙が送られてきました。
中には、「煙突描きのリン」という映画の企画があることが書かれていたそうです。
その映画の企画を読み、メロディーが浮かんだ木村弓さんは、『いつも何度でも』を作曲し、宮崎駿監督に曲を送りました。
残念ながら「煙突描きのリン」はお蔵入りとなってしまったのですが、代わりに映画「千と千尋の神隠し」のエンディングに起用されることになりました。
後に、宮崎駿監督は『いつも何度でも』が、「千と千尋の神隠し」の制作のきっかけになったのかもしれないと言っていたそうです。
それほど、この曲には宮崎駿の心を打つものがあったのではないでしょうか。
「いつも何度でも」の歌詞に込められた意味
『いつも何度でも』の歌詞の意味を考えると、「千と千尋の神隠し」のストーリーと少し離れているようにも感じます。
やはりこれは、『いつも何度でも』が「煙突描きのリン」をイメージして描かれているからでしょう。
「煙突描きのリン」は、群発地震が起こり廃墟となった東京が舞台となっています。
しかし、退廃的な話ではなく、敵対する20歳の女性と60歳のおじいさんが恋をするという意外な設定だったそうです。
『いつも何度でも』の歌詞を読んでいると、「煙突描きのリン」のストーリーにマッチする歌詞が出てきます。
かなしみは数えきれないけど
ゼロになる からだ
生きている不思議 死んでいる不思議
花も風も街も みんな同じ
これらの歌詞から感じられるのは、群発地震で起こった悲しみ、死、そして生といったものです。
この歌の歌詞に、どこか寂しさ、無常感を感じられる所以でしょう。
他の歌詞はどうでしょうか。
呼んでいる 胸のどこか奥で
いつも心踊る 夢を見たい
この歌詞は曲の最初の2行です。
木村弓さんが最初に頭に浮かんだフレーズです。
この最初の2行の後に、作詞家の覚和歌子さんが歌詞をつけました。
この中から伝わってくるのは、「希望」や「夢」です。
どんな時も、人は、心が踊るような夢を持つことを願っています。
大都市が地震で廃墟となってしまっても、人の心の奥底には希望があり、夢を持ちたいと願っているのです。
「煙突描きのリン」は、残念ながら公開されることはありませんでしたが、代わりに「千と千尋の神隠し」のエンディングテーマに起用されました。
「千と千尋の神隠し」では、10歳の少女が強くたくましく成長していく姿が描かれています。
『いつも何度でも』は、子供たちに「夢」や「希望」を持ってたくましく生きて欲しいという願いにマッチする曲なのだと思われます。
人の生と死に関わる無常観、人が心の奥底に持つ「夢」や「希望」を歌っているからこそ、心に響き心に残る名曲となっているのではないでしょうか。
「いつも何度でも」はなぜ心地よいのか
『いつも何度でも』の音楽は、誰が聞いても心地よく、聴いている人の心を穏やかにしてくれる、忘れられない音楽です。
それはなぜでしょうか。
心を癒す歌声や伴奏
木村弓さんの声は、澄んでいて心に残るような声の響きを持っています。
優しく語りかけるように、疲れた心を癒すように、希望や夢のある歌詞が歌われます。
木村弓さんは、若くしてカリフォルニアに渡り、音楽を勉強してきた方です。
また帰国後も声楽を学び、その後、声と心理、身体のつながりといった、音楽療法の分野に活動を広げてきています。
音楽を専門的に学んできたからこそ生まれる音楽感、そして、音楽と心と体のつながりについて追及してきたからこそ感じることができる癒し、そういったものを、木村弓さんの音楽から感じることができるのでしょう。
また、ゆったりとした3拍子、ライアーだけのシンプルな伴奏が、より一層聴く人をこ心地よくさせてくれます。
ライアーとは、ギリシア神話に出てくるような手に持って奏でる竪琴です。
木村弓さんが奏でるライアーは、丸っこく見た目も癒されるかわいらしい形をしています。
ライアーという楽器は、実はまだ歴史が浅い楽器です。
20世紀初めに障がい者施設の音楽療法の楽器としてスイスに誕生しました。
生み出したのは音楽家でありピアニストであったエドモンド・プラハトです。
プラハトは、ライアーを演奏するためだけの楽器として生み出したのではありません。
障がい者の人たちに、音楽を聴いて心地よいと感じてもらうために、ライアーを考案しました。
プラハトは、ピアノの中の弦が張ってある部分を取り出し、手に持って演奏したそうです。
ライアーは、その後ドイツのシュタイナーによって、学校の音楽の授業にも取り入れられるようになりました。
心を癒す楽器として生み出されたライアーは、優しい音色によって私たちの心を癒してくれるのです。
木村弓さんが奏でるライアーの音は、ポンポンポン・・・と、一つ一つ優しく奏でられ、語りかけるようしっかりと私たちの心に響いてきます。
心を癒す和音進行
もう一つ、この曲には人の心癒す秘密が隠されています。
それは、「カノン進行」と呼ばれる和音進行です。
J.S.バッハの「パッヘルベルのカノン」はみなさんご存知でしょうか。
ゆったりと、心を癒すような美しい名曲です。
もう一つ、この曲には人の心癒す秘密が隠されています。
それは、「カノン進行」と呼ばれる和音進行です。
J.パッヘルベルの「パッヘルベルのカノン」はみなさんご存知でしょうか。
「3つのヴァイオリンと通奏低音のためのジーグ」が正式な名称です。
ゆったりと、心を癒すような美しい曲です。
「カノン」とは、旋律が追いかけるようにして重なる形式です。
旋律の形は同じなのですが、各声部が異なる音から始まります。
「パッヘルベルのカノン」は、この「カノン」という形式に加え、通奏低音と呼ばれるベース音が同じパターンで繰り返されます。
この「パッヘルベルのカノン」に使われている和音進行が、多くのポップスの名曲に使われています。
赤い鳥「翼をください」
ZARD「負けないで」
Greeen「キセキ」
KAN「愛は勝つ」
SMAP「世界にひとつだけの花」
森山直太朗「さくら」
スピッツ「チェリー」
井上陽水「少年時代」
ビートルズ「レット・イット・ビー」
合唱曲「Blieve」杉本竜一作曲
「energy flow」坂本竜一作曲
曲名を挙げたらきりがないくらい多く使われ、ヒット曲を生み出す和音進行とも言われています。
コードでいうと、Cメジャーの場合は、
C - G - Am - Em - F - C - F - G
和音記号でいうと、
Ⅰ- Ⅴ- Ⅵ - Ⅲ - Ⅳ - Ⅵ -Ⅰ- Ⅳ - Ⅴ
という進行になります。
EmがCになるなど同じ機能の和音に変わったり、ベース音が変わったり、様々なバージョンがあります。
ポップスの曲の場合、ベース音が
ド - シ - ラ - ソ - ファ - ミ - ファ - ソ
などのように下行していく形をとっていくこともあります。
カノン進行は聞いているとなんだか心が落ち着いてきます。
だからこそ、数々のヒット曲を生み出しているのでしょう。
「千と千尋の神隠し」は、Fメジャーです。
冒頭のフレーズは次のコード進行が使われています。
F - C - Dm - Am - B♭ - F/A - Gm7 - C7
ベース音は、ファ- ド - レ - ラ - シ♭ - ラ - ソ - ド
となっています。
和音記号にすると、
Ⅰ - Ⅴ - Ⅵ - Ⅲ - Ⅳ - Ⅵ -Ⅰ- Ⅳ - Ⅴ
Cメジャーにすると、
C - G - Am - Em - F - C/E - Dm7 - G7
となります。
7つ目のコードにFではなく、Dm7が使われているのは、Fと同じ機能のサブドミナントと言われるコードだからです。
最初に挙げたカノン進行のバリエーションの一つです。
C/Eも、ベース音を「ド」ではなく「ミ」にすることで、和音の形(転回形)を変えています。
そうすることで、ベースの動きを滑らかにしています。
このように、『いつも何度でも』は、カノン進行が使われていることによって、心地よい響きの音楽になり、ヒット曲となったのです。
まとめ
『いつも何度でも』は、大ヒットジブリアニメ映画「千と千尋の神隠し」の主題歌として、老若男女問わず多くの人に親しまれています。
その理由は、癒しの音楽だからです。
音楽療法として生み出された楽器の音色、音楽療法を学んできた木村弓さんの歌、心に響く歌詞、心が落ち着いてくる和音進行など、全てが絶妙に絡み合い、マッチしているからこそ、多くの人の心を癒し続けているのでしょう。
心に残る名曲として、これからも歌い継いで欲しい日本の名曲です。
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