【サカナクション】アネッサCMソングとしても人気な『多分、風。』について徹底考察!
『多分、風。』はサカナクションが2016年にリリースした曲です。アネッサのCMにも起用されており、耳にした人も多いでしょう。『多分、風。』は80年代の歌謡曲、テクノポップに影響を受けて作られました。今回はサカナクションの『多分、風。』を掘り下げていきます。
サカナクションの『多分、風。』の歌詞から意味や想いを徹底考察
『ネイティブダンサー』や『さよならはエモーション』等、山口一郎の歌詞は自分の経験や、故郷への思いを綴ったものが多いです。
ただ今回の『多分、風。』は傾向が異なり、私達がイメージする郷愁(ノスタルジックな感覚)を歌にしています。
実際には経験してないけど。みんなが経験したことがあるような感覚というか……そういう景色を音楽にできたらなっていう。あとは日本人にしか理解できない風景ってあるじゃないですか。それって、まさに郷愁だと思うんだけど。そこにこだわることが、当時の歌謡曲で描かれていた風景とすごくマッチするなと思ったし、自分のルーツにあるフォークソングとしての役割みたいなもの――演歌もそうなんですけど、そこに辿り着けるかなって。
私達は桜をみると出会いと別れを振り返り、金木犀の香りを嗅ぐと懐かしさを抱きます。
それは日本人が遺伝子レベルで擦り込まれている感覚であり、日本人にしか分からない郷愁です。
『多分、風。』は山口一郎が幼少期に親の影響で聴いていたフォークソングを下地にした楽曲であり、いわば物語として歌詞を書いています。
田舎の線路沿いの畦道で、ショートヘアの女の子は自転車でやってくる。それを男の子は、気にしてないふりをしていて、女の子はまったく気にしていなくて、あっさりとすれ違うんだけど、実はすれ違い終えてからメチャクチャ気にしているっていう、その様を「風だ」という表現にしたんです。
田舎の線路沿いの畦道、自転車ですれ違う男女、片思いの感覚
体験した事はないけれど、文章で読むだけでイメージが湧くのではないでしょうか?
それは曲であったり、小説やドラマ等、私達が何度も物語の中で体験した事のある風景です。
この曲には、フォークソングや歌謡曲等、山口一郎が幼少期から聴き続けた曲への想いが込められています。
『多分、風』のPVの内容やロケ地は?
『多分、風』のPVにも80年代の要素が含まれています。山口一郎が着ているのは80年代に流行ったコム デ ギャルソンのスタッフコートです。
出てくる女性は中国出身のモデル『る鹿』です。メンバーが黒い衣装を纏っているのとは対照的です。
PVのロケ地は千葉県の九十九里浜です。風をテーマにしたロケ地に相応しく、撮影日当日は風が吹いていましたが、それでも想定よりは足りなかった為に扇風機を駆使しています。
ロケ地の九十九里浜は雰囲気があるものの、自転車を漕ぐ場所ではなく、近くに線路もありません。PVと歌詞は少々方向性が違うかもしれませんね。
サカナクションの『多分、風。』の歌詞考察
続いて歌詞を掘り下げていきましょう。曲自体は前述した通り、物語として歌詞を書いているので、感覚的な部分が多いです。あまり掘り下げられない箇所も多いかもしれませんね。
ほらショートヘアをなびかせたあの子
やけに気になりだした なぜか
今アップビートの弾けた風で
口に入った砂
冒頭ではショートヘアをなびかせたあの子が登場。主人公はそれに気づいて旨をときめかす。
まるで昭和の映画のワンシーンです。私のイメージは黒髪のブラウスの少女ですが、皆さんはどうでしょう?
あの子を見かけた主人公の気持ちの高ぶりを「アップビート」とあえて古臭く表現する事で80年代の雰囲気を出しています。
誰もが忘れる畦道を
静かに舐めてく風走り
知らないあの子と自転車で
すれ違ったその瞬間
主人公とあの子は畦道ですれ違いますが、ここは誰もが忘れてしまう場所なんだそう。
ここは文字通り人通りの少ない道という意味の他、大人になるにつれ忘れていく幼少期の憧憬の2つの意味がありそうです。
とうと主人公はあの子とすれ違います。
その瞬間に主人公がした事とは…。
風 走らせたあの子にやや熱い視線
焦らせたその仕草に
風 走らせたあの子にやや熱い視線
焦らせたこの季節に
連れて行かれたら
風のように通り過ぎていくあの子に気づいてもらえるようやや熱い視線を送ります。
やや熱い視線なのはその恋がまだ始まったばかりの淡いものであるから。
多分あの子はそれにも気付かずに立ち去ってしまうのでしょうが。
そんな男女のすれ違いを『風』と表現したのです。
ほらショートヘアをなびかせたあの子
口に入りかけてた髪が
今ダウンビートの静かな風と
絡み合った時間
2題目では髪の毛が口に入る程に自転車を漕いでいるあの子の描写から。
先程は『アップビート』と気持ちの高鳴りを表していましたが、今回は『ダウンビート』の風と気持ちが落ち着いているように思われます。その意味は次のサビで明かされます。
畦 走らせたあの子は 多分 風
焦らせたあの仕草は 多分 風
風 走らせたあの子にやや熱い視線
焦らせたその仕草に
風 走らせたあの子にやや熱い視線
焦らせたこの季節に
連れて行かれたら
なんと畦道を走るあの子は『風』であり、主人公の妄想だったのです。山口一郎はインタビューでこう語っています。
その女の子は実在していなくて、実は風だったという男の子が妄想をしているというストーリー。小説に近い書き方なのかもしれませんね。今までにやったことがなかった、プロファイルから作っていった歌詞です。
主人公が何故あの子の妄想をしたのは、季節に焦られたからとの事。アネッサのCMの先入観や、あの子のイメージ等、説明がなくても季節は夏だと想像させられます。
何故主人公がこんな感情になったのか、それは多分風のせいだからです。
その感情が曲名になっていますが、『多分、風。』の気持ちを落ち着かせる為に句点を、気持ちを整理する為に読点を追加しています。
曲名にも工夫されているのは流石ですね。