ラヴェルの「クープランの墓」を解説!難易度・楽譜・演奏時間を紹介
ラヴェルの『クープランの墓』はラヴェルが亡き戦友に捧げた曲、とも言われています。『クープランの墓』の作曲の背景には一体なにがあったのでしょうか、深く掘り下げてみました。また、併せて難易度や演奏時間、各曲の簡単な解説もまとめています。
ラヴェルとは?
ラヴェル(モーリス・ラヴェル)は1875年生まれのフランスのピアニストであり、作曲家です。ラヴェルが1937年に亡くなるまでの間に作曲した曲は当時の他の作曲家たちに比べるとそう多くはありません。しかしその一曲一曲がとても濃厚で、素晴らしい曲ばかりを作りました。
代表曲には『スペイン狂詩曲』『亡き王女のためのパヴァーヌ』『ボレロ』『夜のガスパール』『水の戯れ』、そして今回ここでとりあげる『クープランの墓(Le Tombeau de Couperin)』があります。
『ボレロ』は音楽の教科書などにも掲載され、ご存知の方も多いかもしれません。また、ピアノを弾かれている方であれば『亡き王女の~』は通った、という方もいらっしゃるでしょう。
ラヴェルの「クープランの墓」とは?
『クープランの墓(Le Tombeau de Couperin)』はラヴェルが1914年から1917年にかけて作曲ししたピアノ組曲です。
ちなみに原題にある「Tombeau」とはトンボーと読み、意味としてはフランス語で「墓」を表す言葉です。ですからこの日本語訳が「クープランの墓」となったのだと思われますが、実際、音楽用語としては「Tombeau」とはバロック音楽では、特にフランスではよく作られたという、いわゆる「追悼曲」のようなものを言います。
ですので、クープランを偲んだ曲、というのではなく、クープランがいた時代(バロック時代)の音楽の形式をオマージュした追悼組曲、と解釈するのが正しいかと思われます。
ラヴェルの「クープランの墓」の世界観
『クープランの墓』は第一次世界大戦で亡くなった友人たちに捧げた曲
『クープランの墓』は上記しましたように1914年から1917年にかけて作られた曲です。その年代はちょうど第一次世界大戦の頃でした。ラヴェルも当然、友人らとともにこの戦争に参加したかったのですが彼は体が小さかったために兵隊にはなれませんでした。それでもフランスを愛する者としてなんらかこの戦いに関わっていたいと思った彼は野戦病院の車の運転手として関わっていくこととなります。
しかし彼はこの間に自身の体調を崩してしまうことになります。さらには彼の母親も亡くし、友人らも戦争で失います。そんな失意の中、この戦争で失った友人らのために追悼の意味をこめて作られたのが『クープランの墓』なのです。
そしてこの曲は、ラヴェルが作曲したピアノの独奏曲としては最後の曲となります。
初演はマルグリット・ロンによる
この曲の初演は1919年4月11日、ピアニストのマルグリット・ロンによるものでした。彼女はこの大戦で戦死し、この組曲の最後の曲、トッカータを献上されていたジョゼフ・ド・マルリアーヴの妻でした。
この初演は大成功をおさめ、組曲全てをアンコールで弾いた、というエピソードもあります。この組曲が戦士した人たちへの追悼だとするならば、当時の聴衆たちがその思いをアンコール、という形に込めたのでしょう。そして作曲したラヴェルの思いもまた、聴衆たちに伝わったのだと思います。
ラヴェルの「クープランの墓」の曲について
「クープランの墓」の構成とそれぞれの解説
プレリュード(Prelude)
『クープランの墓』の組曲は全部で6曲からなります。
プレリュードはジャック・シャルロ中尉に捧げられた曲。16分の12拍子で、組曲の古典的なスタイルのいわゆる「前奏曲」として作曲されています。ホ短調の曲。
フーガ(Fugue)
フーガはジャン・クルッピ少尉に捧げられた曲。4分の4拍子で、フーガ形式にのっとられて作曲されています。こちらもホ短調の曲。
フォルラーヌ(Forlane)
フォルラーヌはガブリエル・ドゥリュック中尉に捧げられています。フォルラーヌとはイタリアのフリウーリが発祥の、リズムの速い伝統的な舞曲のことをいいます。ラヴェルは1914年にクープランの『王宮のコンセール』のフォルラーヌの編曲をしており、その影響がこの曲にはあらわれています。8分の6拍子でホ短調の曲。
リゴドン(Rigaudon)
リゴドンはピエールとパスカルのゴーダン兄弟に捧げられました。リゴドンとは鐘の音を表しますが、プロヴァンス地方に古くから伝わる舞曲のことでもあります。
4分の2拍子で、「Assez Vif(アッセ・ヴィフ)」という指示がついていますが、演奏速度が弾く人によってさまざまなため、演奏時間がまちまちになる曲です。ハ長調の曲。
メヌエット(Menuet)
メヌエットはジャン・ドレフュスに捧げられました。4分の3拍子でト長調の曲です。ラヴェルのメヌエットの中ではこの組曲のメヌエットが最高である、と称賛する声も多いです。
トッカータ(Toccata)
トッカータは、上記しましたように最初の演奏者であるマルグリット・ロンの夫、ジョゼフ・ドゥ・マルリアーヴ大尉に捧げられました。4分の2拍子で、ロンド・ソナタ形式がとられています。ホ短調→嬰ニ短調→ホ短調→ホ長調、とめまぐるしく変わる曲でもあります。この曲も、弾く速度はピアニストの解釈によってさまざまなようです。
「クープランの墓」の全体の演奏時間
『クープランの墓』の全体の演奏時間ですが、6曲からなる組曲であるということと、それぞれ一応速さの指示は出ているものの、ピアニストそれぞれの解釈によって速さが変わってくるため、ばらつきがあります。
しかし、著名なピアニストの演奏を見てみると、大体20分~25分くらい、というのが多いようです。いずれにしても「大作」ということに間違いはなく、全て通して弾こうと思うとなかなかに体力、そしてエネルギー、気力、集中力、というものを必要とする楽曲だと言えるでしょう。
「クープランの墓」の難易度
ラヴェルの曲はもともと、難易度が高いと感じるピアニストは多いです。
中級レベルでは音取りすらも難儀しますし、上級者でも苦労します。実は筆者もラヴェルの曲は憧れはしたものの、いざ弾きこなそうとしたときにとても苦労した覚えがあります。なぜなのだろうと理由を考えてみると、それまでに習ってきたような音運び、指運びとはちょっと違うのかもしれないという結論にたどり着きました。トリッキー、というと少し違うかもしれませんが、斬新な音使いをしていて、それまで一般的なソナタなどに慣れてきてしまうとややとまどうかもしれません。
『クープランの墓』も、難易度としては高い方です。しかし、この6曲の中でも、メヌエット、プレリュードあたりは、比較的弾きやすい曲です。とくにメヌエットは6曲の中でも一番わかりやすく、音取りも難しくないでしょう。しかしそれでも、弾きこなすにはそれなりの鍛練が必要となります。
逆に、6曲の中でもっとも難易度が高いと言われているのが最後のトッカータです。この曲はラヴェルの作曲した曲の中でもトップ3に入るほどの難曲とも言われています。また、ピアノ史上にトッカータは何曲もありますが、ラヴェルのこのトッカータは最高傑作である、という方も多いです。
どの曲でもそうですがまずはゆっくりと音取りから開始し、ゆっくりとしたテンポでミスタッチのないように弾けるようにしてから、テンポをあげていってください。ある程度の技術をお持ちの方ならチャレンジのし甲斐がある曲だと思います。
おすすめ動画
カナダのピアニスト、アンジェラ・ヒューイットの演奏です。ちょうど25分くらいの演奏時間ですね。彼女はラヴェルのほか、クープラン、ショパン、メシアンなどのピアノ曲を多く録音しています。興味があればぜひ、彼女のラヴェルのCDも聴いてみてください。
こちらは金子一郎のピアノによるラヴェルの『クープランの墓』です。こちらも演奏時間は大体25分くらいとなっています。彼は2005年、ピティナ・ピアノコンペティションソロ部門特級でグランプリ(金賞)を受賞した実力者で、現在も多数リサイタルと行っているピアニストです。
ラヴェルも、ピアニストそれぞれの解釈が表れるものなので、アンジェラ・ヒューイットとの演奏と聴き比べをしても面白いかもしれませんね。
「クープランの墓」の楽譜、おすすめ名盤
『クープランの墓』はさまざまな楽譜が出ていますが、上の方は『クープランの墓』1曲のみ、そして2つ目は『クープランの墓』の他、ソナチネや『夜のガスパール』なども載っています。
価格的にも、上のほうは海外版のせいもあってややお高くなっていますが、日本版のほうは比較的安く入手できるようです。
こちらは『クープランの墓』の名盤、ともいえるべき、アルゲリッチによる演奏のCDです。さまざまなピアニストが弾いていますが、特にこちらをおすすめしておきましょう。
ラヴェルの「クープランの墓」まとめ
こちらではラヴェルの『クープランの墓(Le Tombeau de Couperin)』について、この組曲が作曲された背景やそれぞれの楽曲についての解説、難易度、演奏時間、おすすめのピアニスト動画などをご紹介しました。
ドビュッシーと比較されることが多いラヴェルですが、実際弾いてみるとそうでもない、ということが分かります。『クープランの墓』以外にも、ラヴェルの曲はいい曲がたくさんありますので、興味をもたれましたら是非、弾いて(聴いて)みてください。