ホルストの組曲『惑星』とは?中でも有名な『木星』についてわかりやすくご紹介

『惑星』は、英国の作曲家グスタフ・ホルストが作曲した組曲で、ホルストの代表曲と言われています。7つの惑星の名のついた曲で構成された曲です。4曲めの「木星」は有名で、近年では平原綾香さんがリリースした「Jupiter(ジュピター)」でも知られています。

記事の目次

  1. 1.ホルストの組曲『惑星』とは
  2. 2.ホルストの組曲『惑星』 各曲を紹介
  3. 3.『木星』は日本でも話題となった名曲!
  4. 4.まとめ

ホルストの組曲『惑星』とは

『惑星』は、グスタフ・ホルストが作曲した、7つの曲で構成されている組曲です。1916年に完成、1920年に初演と記録されていますので、クラシック音楽史の中では「近代」に区分される時代の曲です。7つの曲には惑星の名前と、例えば「火星:戦争をもたらすもの(Mars, the Bringer of War)」のように副題がついています(後に続く「〜もの」の方がメインタイトルであるという説もあります。)曲の構成は以下の通りです。
 

  1. 火星:戦争をもたらすもの(Mars, the Bringer of War)
  2. 金星:平和をもたらすもの(Venus, the Bringer of Peace)
  3. 水星:翼のある使者(Mercury, the Winged Messenger)
  4. 木星:快楽をもたらすもの(Jupiter, the Bringer of Jollity)
  5. 土星:老いをもたらすもの(Saturn, the Bringer of Old Age)
  6. 天王星:魔術師(Uranus, the Magician)
  7. 海王星:神秘主義者(Neptune, the Mystic)

 

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「地球」と「冥王星」がない理由:ホルストの生きた時代

現代の私たちが「惑星」と聞くと、太陽系など天文学的な意味で「惑星」をイメージするのが普通だと思いますが、この曲は天文学ではなく、占星術との出会いが作曲の動機になったというのが定説です。ですから「地球」は含まれません。

また、「冥王星」は2006年まで太陽系の惑星に含まれていましたが組曲「惑星」には含まれていません。なぜなら、この曲が作られた1910年代では、まだ冥王星が発見されていなかった(1930年に発見された)ためです。冥王星の発見後、ホルストは「冥王星」の作曲に臨んだと言われていますが、未完のまま生涯を閉じました。後年、他の作曲家によって「冥王星」が追加されたバージョンが発表されました。2006年以降、「冥王星」は太陽系の惑星から外れてしまったため、作曲当初の7つの惑星(+地球)という構成は実態にあったものとなっています。

惑星の順番が違う?

ご存知の通り、太陽系の惑星を太陽から近い順に惑星を並べると、

  • 水星、金星、(地球、)火星、木星、土星、天王星、海王星
となりますが、組曲「惑星」では水星と火星が入れ替わっています。この理由には2つの説があります。
  1. 占星術における「守護惑星」の考え方に基づき、それぞれの惑星が支配する星座の順に並べた。
  2. 最初の4曲を交響曲で使用される「急ー緩ー舞ー急」に合わせた。

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組曲『惑星』の作曲者・ホルストについて

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まず、作曲者のホルストについて解説します。グスタフ・ホルスト(グスターヴ・ホルストとも表記されます:Gustav Holst)は英国出身で、19世紀末から20世紀前半に活躍した作曲家です。管弦楽曲だけでなく、吹奏楽曲も作曲していて、吹奏楽の経験がある方は「吹奏楽のための第1組曲/第2組曲」は1度は耳にしたことがあるのではないでしょうか。

作曲をしながらトロンボーン奏者としても活動していたと言われています。途中、インド文学の影響を受けたり、先にも紹介したように占星術と出会いそこから着想を得て「惑星」を作曲したり、また、日本人の振付師から依頼を受けて「Japanese Suite(日本組曲)」という小さな組曲を作曲するなどユニークな経歴があります。

ホルストの組曲『惑星』 各曲を紹介

参考動画を挙げながら組曲「惑星」を構成する各曲を紹介していきます。動画は6.天王星以外は英国最大のクラシック音楽の祭典、プロムス2015の、スザンナ・マルッキ指揮、BBC交響楽団による演奏です。

なお6.天王星の動画は、プロムス2009、チャールズ・マッケラス指揮によるものです。

1.火星:戦争をもたらすもの(Mars, the Bringer of War)

「木星」に次いで知られている曲ではないでしょうか。テンポは速く(allegro)、5/4拍子のリズムが特徴の曲です。曲の大部分に「タタタタン・タン・タタタン」というリズムが使われており、勇ましく規律のある、まさに戦闘シーンを思わせるような曲調です。中間部を挟んで主題が激しさを増して再現されます。途中、オーケストラでは珍しくユーフォニアムのソロがあります(動画の2:10〜)。

2.金星:平和をもたらすもの(Venus, the Bringer of Peace)

「火星」とうって変わって、リラックスした美しい曲調です。ホルンと木管楽器の掛け合いから始まり(ホルンはソロのみならず曲中で印象的に使用されています)、弦楽器の美しいアンサンブルの後、ヴァイオリンやクラリネット、チェロなどのソロが続きます。キラキラとしたチェレスタ(動画7:49〜など)の音色も印象的です。

3.水星:翼のある使者(Mercury, the Winged Messenger)

交響曲と考えた時のスケルツォ(おどけた感じの曲)に当たる曲です。全体に軽快で動きのある曲調です。チェレスタのほか、フルートやクラリネット、オーボエなどの高音の木管楽器がコロコロと踊るように活躍します。

4.木星:快楽をもたらすもの(Jupiter, the Bringer of Jollity)

この組曲の中でもっとも有名な曲です。弦楽器の細かい16分音符に乗せてホルンの勇壮なテーマが演奏されます(ちなみに組曲「惑星」では一般の編成より多く、ホルンは6本と指定があります)。第2テーマ、第3テーマもホルンが大活躍。そして一旦静まり返ったあと、有名な中間部のメロディがドラマチックに演奏されます(動画2:48〜)。中間部が終わると冒頭の主題が展開され、中間部のメロディが現れたかと思うと急速なテンポのコーダで曲が終わります。

5.土星:老いをもたらすもの(Saturn, the Bringer of Old Age)

「木星」の華々しいコーダの後、ひっそりとハープとフルートによる前奏が始まり、そこに木管の低音が加わっていきます。ハープとフルートによる二分音符のリズムの反復は大きな時計の振り子のよう。二分音符のリズムは担い手を変えて曲中を通して演奏されますが、中間まではフルートセクションを中心とした木管楽器が印象的です。中間で曲調が壮大になりますが、再びチェロやチューバ、コントラファゴットなど低い楽器のメロディの後ろにハープやヴァイオリンなど高音の楽器が伴奏をつける展開となり、静かに曲を締めくくります。曲全体としてはとても静謐(せいひつ)な印象を受けます。

6.天王星:魔術師(Uranus, the Magician)

金管楽器の「G-E♭-A-B(ソ-ミ♭-ラ-シ)」という特徴的なユニゾンから始まるこの曲ですが、ホルストより少し年代が上のフランスの作曲家ポール・デュカスの代表曲である「魔術師の弟子*」をモチーフにしていると言われています。冒頭に出てくる「G-E♭-A-B(ソ-ミ♭-ラ-シ)」は曲中で頻繁に用いられます。この4つの音はドイツ表記だと「G-Es-A-H」となり、一説ではホルストの名前を表している(Gustav Holst)と言われています。

*魔法使いの弟子とも訳され、ディズニー映画「ファンタジア」で扱われていることでも知られている曲です。

海王星:神秘主義者(Neptune, the Mystic)

全体に静かに、慎重に演奏される曲です。低音は静かに鳴りその上にチェレスタ、ハープなどの高音がタイトル通り神秘性をもたせます。ところで、この曲は中盤から女声合唱が入ります。しかしオーケストラの後ろに合唱団はいません。これには理由があります。

The Chorus is to be placed in an adjoining room, the door of which is to be left open until the last bar of the piece, when it is to be slowly and silently closed.

この引用文は実際のの海王星のスコアにっ書かれている指示です。ポイントをまとめると、

  1. コーラスはホールに隣接する部屋で歌う。
  2. 部屋の扉が開いている状態で歌う。
  3. 最後の小節(なん度もリピートする)の時にゆっくり静かにドアを閉める。
ホルストはこの「仕掛け」を用いて、当時のクラシック音楽では珍しい「フェードアウト」を実現させようとしたと言われています。ドアが完全に閉じられ、コーラスの声が聞こえなくなった時、曲は結びとなるのです。

『木星』は日本でも話題となった名曲!

クラシック音楽の名作として

組曲『惑星』は英国内では評価があったようですが、世界的な評価を得るまでには時間がかかりました。この曲が再評価されるようになったのはカラヤン&ウィーンフィルの演奏であったと言われています。

 

ジャンルを超えて

時代が下って、『惑星』様々な音楽家によって解釈され演奏されてきました。その中にはクラシック音楽の枠を超えた作品もありました。英国ではキーボーディストのキース・エマーソン擁するエマーソン・レイク・アンド・パーマーがプログレッシブロックで解釈をし発表、日本では冨田勲がシンセサイザー用に編曲をしました。

平原綾香の「ジュピター」

そして近年で忘れてはならないのが歌手・平原綾香さんが2003年にリリースしたマキシシングル「Jupitar」でしょう。祖父、父がクラシック音楽家という彼女は、クラシック界からポピュラー音楽界に颯爽と現れ、デビュー曲をヒットさせました。この曲は、「木星」の中間部に歌詞をつけた作品です。

折りしも、リリースの翌年に日本では新潟県中越地震が発生し、甚大な被害を受けましたが、この時「Jupitar」が新潟県内でなん度もかかり、被災した方々を勇気付け、癒しました。それ以来、「Jupitar」困難な局面が生じた時に聞かれる曲という位置づけも持つように鳴りました。

余談

「Jupitar」は、先に述べたように「木星」の中間部に歌詞をつけた作品ですが、この形式はホルストの母国でも「我は汝に誓う、我が祖国よ」というタイトルで親しまれています。

まとめ

以上、ホルストの組曲『惑星』にまつわるエピソードと曲の紹介、そしてその後の展開についてご紹介しました。クラシック音楽を普段聞き慣れていないけれども『惑星』を聴きたい方。まずは聴きやすい人気の「火星」「木星」から聴き始めることをお勧めします。どちらの曲も展開に飛んでいて聞き応えがあります。

そのほかの曲も素晴らしいですが、「土星」は面白くてもちょっと長く感じてしまったり、逆に「水星」は短くてよくわからなかった。「金星」や「海王星」は美しいけれどやや平板で覚えにくいなどと感じるのではないかと思います。それで無理をして通しで聴いて『惑星』の印象がぼんやりしてしまうのはもったいないです。色々聴いて、クラシックの耳を作ってから全曲にチャレンジで十分だと思います。

また、入り口はなんでも良いとも思います。平原綾香さんから入った方、大歓迎です。恥ずかしいことなんてありません。原曲を聴くきっかけはなんでも良いのです。

以上、ホルストの代表曲である組曲『惑星』についてご紹介しました。

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