【サカナクション】シングルカップリング曲にも名曲揃い!「スローモーション」とはどんな曲?
サカナクションはカップリング曲も評価が高く、特にスローモーションはファンから根強い人気があります。真夜中な冬を想像させつつも、シュールなPVにも注目が集まっています。今回はサカナクションのスローモーションについて掘り下げていきましょう。
サカナクションにとってのスローモーションの原点は?
山口一郎はyellow magic orchestraやゴダイゴ等の80年代の音楽に影響を受けたと公言しています。スローモーションは稲垣潤一や中森明菜等のイメージがあったそう。
こちらは中森明菜のスローモーションですが、何となくイメージは似ています。サカナクションのスローモーションが大きく異なるのは、後半のカオスな間奏です。このようなアレンジになった理由を山口一郎はこう述べています。
「表参道26時」という曲でも同じく昭和やバブルを想像して歌ったけど、この曲では、その時代感が売りになるって考えた自分にもいらついたし、そこをぶち壊したいっていうのが最後に表れたという。
この楽曲より前に発売された「アルクアラウンド」はYMOやゴダイゴ等を彷彿とさせるアレンジがなされている事が大々的に宣伝され、古き音楽と現在のロックを融合させたのがサカナクションのスタイルだと認識されるようになります。
それは悪い意味でサカナクションのイメージを固定させる事に繋がりかねません。
この時期の昭和感が売りになると分かってはいても、あえて曲の構成に変化を加えたのがスローモーションでした。
常に変化を求めるサカナクションの姿勢がこの楽器にも現れているのです。
スローモーションの歌詞考察
続いてスローモーションの歌詞の意味について考察していきましょう。
先程も述べましたが、この曲は冬の真夜中の風景を歌にしています。風景描写は私たちもその場にいるような感覚を与えます。
この曲から読み取れる山口一郎の心境はどのようなものでしょうか。
降り落ちる雪はスロー
少し黙って僕はそれを見てた
寒いんだけど窓は
あえて開けっ放しにしておいたよ
何もない夜はスロー
少し黙って僕は冬を感じて
寒いんだけど上着は
あえて置きっぱなしで駅へ向かったよ
冒頭は空から雪がゆっくりと落ちてくるところから始まります。山口一郎は寒いにもかかわらず、窓を開けて雪を見たり、上着を着ずに外へ向かいます。
これは北海道に対する望郷の念があるからだと思われます。ネイティブダンサーの歌詞に興味深いフレーズがあります。
いつかあの空が僕を忘れたとして
その時はどこかで 雪が降るのを待つさ
ネイティブダンサーの歌詞です。北海道の空が僕を忘れたとしても、東京で雪が降るのを待つと歌っています。
東京は北海道に比べると積雪量も少なく、気温もずっと高いです。山口一郎は東京の雪に懐かしさを感じつつも、北海道の風景や感覚を思い出すには至らなかったのではないでしょうか?
だから窓を開け、上着を脱ぐ事で、北海道の寒さを思い出そうとしたのでしょう。
ほら終駅着きまだ降りず
なぜか心の奥で考えてました
くだらない くだらないことですぐ悩む
駅へ向かった山口一郎は終着駅に着いても、降りようとはしません。
実際に駅まで向かったのか、駅=思考という意味の比喩なのかは不明ですが、駅から降りなかったのは山口一郎が葛藤の中にあったからです。
だけど集積せずに放り出す
なぜか僕はそうして生きてました
つまらない つまらないことですぐ悩み
泣いたフリした
様々な悩みを集めて積み重ねるものの、すぐにそれを放り投げて悩む事を辞めてしまう。
山口一郎は自分の生き方をそのように述べています。
悩みとは上京した不安、ミュージシャンとしての自己表現、もしかしたら突発性難聴の事とあるかもしれません。
悩んでも答えが出ない事だからこそ、「つまらないこと」であり「泣いたフリ」をしたとあえて自分に言い聞かせていると思われます。
実際には悩みを放り投げたりはせず、真摯に向き合う山口一郎の姿があるでしょう。
行けない つらりつらりと行けない
それはつまりつまりはスローモーション
ふわりふわり漂う 僕はまるで雪のよう
続いてサビですが、ここでは「つらり」と聞きなれない言葉が出てきます。本来の意味は「あまねく全部」「ずらりと」です。
「つらりつらりと行けない」の意味は言及されていませんが、自分の思うように進めないという停滞感を表しているのでしょう。
思うように進めない→ゆっくり進んでいる→スローモーションと繋がります。
思うように進めない自分と、ゆっくりと空から落ちる雪を重ね合わせているようです。
サビからは山口一郎の複雑な感情が読み取れますね。
降り落ちる雪はスロー
白く曇った窓はまるで僕のよう
淋しいのは雪から雨に変わったせいで
意味はないけど
白く曇った窓という描写から分かる通り、2題目では山口一郎は窓を閉めています。白く曇ったというフレーズから気持ちはすっきりしていない事が分かります。
風景的に見れば雨が降ったから窓を閉めた意味もあるでしょうが、天気の変化は感情の変化という意味もあるでしょう。
ほら終点着き走り出す
なぜか心の奥に君はいました
白い息 白い息吐きながら想う
だけど終電過ぎ自由になる
夜は心へ僕を閉じ込めました
戻れない 戻れないこのもどかしさに
泣いたフリした
1題目では終着駅に着いても降りなかった山口一郎は、2題目では走り出します。先程の雪→雨に変化した天気からも、山口一郎に何かしらの気持ちに変化がある事が分かります。
雪が望郷の念ならば、雨は孤独や寂しさの比喩になるでしょう。
「心の奥にいた君」は特定の人物ではなく、北海道への寂しさを表しているなら筋が通ります。
「夜は心へ僕を閉じ込めた」というフレーズからも、1題目では悩みからすぐに逃げ出していた山口一郎が、夜を通じて己と向き合わざるを得ない状況に追い込まれた事が分かります。
だんだん減る だんだん減る
だんだん減る未来 未来
だんだん知る だんだん知る
だんだん知る未来
行けない つらりつらりと行けない
それはつまりつまりはスローモーション
ふわりふわり漂う 僕はまるで雪のよう
2題目のサビが終わると雰囲気がガラリと変わり、混沌とした間奏になります。これは80年代の音楽を下地にしつつ、そのイメージをぶち壊したかったからと山口一郎は述べていますが、当時の心境も色濃く現れているでしょう。
ラストの盛り上がりでは「だんだん減る未来」と「だんだん知る未来」と合唱されます。
歳をとるにつれ寿命は減り、可能性や選択肢も狭まっていきます。それを「減る未来」と表現しています。
そんな中でも懸命に生きるからこそ「知る未来」もあります。
「減る」と「知る」
相反する事柄を韻を踏みながら表現するのは流石の一言です。
スローモーションは冬の夜という叙情的な曲でありながら、山口一郎の心境も表現したおすすめの名曲と言えるでしょう。